実家の片付けや遺品整理が終わり、遺骨をどうするか考えるなかで、海に遺骨を撒く海洋散骨に興味を持つ方は多くいらっしゃいます。
また、最近は海洋散骨もメジャーになりつつありますので、生前から海洋散骨を希望される方も少なくありません。
しかし、メジャーになりつつあるとはいえ、普段から利用するサービスではないので、不安な部分も多いと思います。
この記事では、遺骨を散骨する方法について、費用や手段、マナーなどまとめて解説しています。
この記事でわかること
・遺骨を散骨するために粉骨が必要なこと
・海洋散骨の費用や種類
・遺骨を散骨するときのマナー
遺骨を処分したいと考えている方にオススメの記事はこちら>遺骨 処分
1.遺骨を海洋散骨するには粉骨が必要? 手続きや費用を紹介

海洋散骨は、近年大いに注目を集めている埋葬形態です。
しかし、今のところ法律による規定がなく、節度を守って行う限り問題ないとされているにすぎません。
注意点はいくつもありますが、特に重要なのが散骨する遺骨は粉骨しなければならないというものです。
ここでは、粉骨を行わなければならない理由や、その方法について解説します。
騒ぎになるのを防ぎ、自然に還りやすくするのが目的
粉骨とは、遺骨をパウダー状に粉砕する行為です。
明確な規定はありませんが、最大でも1mm~2mm程度にまで粉砕し、遺骨とわからないようにするのが適切とされています。
なぜ海洋散骨の前には、遺骨を粉骨する必要があるのでしょうか。
主な理由は次の2つです。
事件性を疑われないようにするため
遺骨をそのまま海にまくと、万が一発見された場合に事件性を疑われる可能性があります。状況次第では、まいた人が死体遺棄罪に問われるおそれもあるのです。
仮にそうならなくても、遺骨の発見者や近隣住民が不安になることは間違いありません。
このような事態を防ぐためにも、遺骨は必ず粉骨するべきだといえます。
死体遺棄罪とは
死体遺棄罪とは刑法190条に定められた遺体損壊・遺棄罪のことで、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得する犯罪とされています。
噛み砕いて解説しますと、この法律は遺体や遺骨を壊したり、許可されていない場所に勝手に捨てたりしてはいけないという内容です。
そのため、遺骨を粉骨することもこれに該当するのでは、という議論もありますが、節度を持って適切な埋葬のために必要な手段であることから、黙認されているというのが現実でしょう。
供養や埋葬ことは宗教的な考え方なども関係してきます。
そのため、信教の事由を憲法で保証している日本では、ふんわりとした解釈のまま放置されているのが現状と言えます。
死体損壊・遺棄罪
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
自然に還りやすくするため

海にまいた遺骨は微生物などによって分解され、やがて自然に還ることになります。
しかし、そのままの状態の遺骨は簡単には分解されません。また、まいた場所に沈んでしまい、いつまでも流れていかない可能性もあるでしょう。
粉骨してから散骨を行えば、遺骨は分解されやすくなり、海流に乗って外洋へ運ばれやすくもなるのです。
なお、粉骨は死体損壊罪にあたるのではないかと議論された時期もありましたが、現在はほぼ問題になっていません。
粉骨も節度を守った行為と見なされているのでしょう。
ただし、遺骨に刃を当てるべきではないと考える方も多く、大抵は刃物を使わない方法(専用の機械)で粉骨されます。
業者に依頼するのが最も確実
海洋散骨を自力で行うには、適したポイントを探したり船を手配したりする必要があります。
そのため、専門の業者に依頼して行うのが一般的です。
業者に任せれば粉骨も行なってもらえますから、最も確実な方法といえます。
また、自力で散骨を行いたい場合でも、粉骨だけを業者に依頼することが可能です。
多くの場合は、粉骨を申し込むと郵送用のキットが送られてくるので、指示通りに梱包・郵送してください。
料金は2万円~4万円程度で、業者に直接持ち込んだ場合は5,000円~2万円ほどで済むこともあります。
なお、郵送の場合は戻ってくるまで1週間~10日ほどかかるので、余裕を持って申し込むようにしてください。
おしゃれな骨壷や、遺骨を小分けにするための水溶性の袋も用意してくれる場合が多いので、業者に確認してみましょう。
自力での粉骨はおすすめできない

自力での海洋散骨を考えている方の中には、「粉骨も自分でやってみたい」という方もいるでしょうが、実際のところ、できなくはないものの非常に大変です。
自分でやろうとすれば、ハンマーやすり鉢などを使って粉砕することになります。
しかし、一般的な量の遺骨を全て2mm以下にしようとすると、何時間もの作業になってしまいます。
また、身内の遺骨を砕くという行為は、精神的なダメージにもなりますから、あまりおすすめできる方法ではありません。
加えて、焼骨には「六価クロム」という有害物質が環境基準値を超えて含まれていることがあります。
業者に粉骨を依頼した場合は、液剤を使って六価クロムを除去してくれますが、自力で含有量の判別や除去を行うのは難しいでしょう。
環境保護の観点からいっても、やはり業者に依頼して粉骨するのが望ましいといえます。
2.遺骨を散骨。海洋散骨のときに気をつけたいマナーと法律

遺骨の埋葬には、いくつもの法律が関わっています。
また、納骨やお墓参りの際には、マナーに十分配慮しなければなりません。法律とマナーを守ってこそ、心から故人を弔うことができるのです。
では、近年注目されている海洋散骨においては、どのような点に注意すればいいのでしょうか。
ここでは、海洋散骨の際に気をつけたい法律やマナーについて解説します。
法律上、遺骨の散骨はグレーゾーン
まずは、海洋散骨に関わる法律について知っておきましょう。
日本の法律では、埋葬に関するルールは「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」によって定められています。
たとえば、墓地以外の場所に埋葬してはならないとか、埋葬する際には市町村長の許可を得なければならないとかいったことです。
ところが、墓埋法には海洋散骨に関わる具体的な定めがありません。
そのため「海は墓地ではないから、海洋散骨は墓埋法に反しているのではないか」、あるいは「死体遺棄罪にあたるのではないか」とする意見もありました。
しかし1991年、法務省は非公式ながら「葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り問題ない」という見解を出したと言われています。
これ以降、散骨を容認する内容の法律は整備されないまま、令和の時代にまで至りました。
つまり、現在も散骨はグレーゾーンであって、国が黙認してくれているから行えるのが実情なのです。
一方、風評被害などを防ぐために散骨を禁止する自治体も出てきており、今後も法整備には注目する必要があります。
粉骨しないと死体損壊・遺棄罪に?
法的にはグレーゾーンとはいえ、今のところ散骨が許容されているのは間違いありません。
問題は、どうすれば「節度をもって行う」ことができるかです。
やはり国の公式見解はありませんが、一般的には遺骨を粉状にすること 粉骨 が最低限の節度だとされています。
というのも、遺骨をそのままの状態で海にまくと、死体遺棄罪にあたる可能性があるからです。
仮に遺骨が海岸に流れ着くなどして発見されれば、事件になってしまうことは間違いありません。
悪意のないことが証明できて、死体遺棄罪を免れたとしても、周辺住民に大きな不安を与えてしまうでしょう。
このような事態を防ぐためにも、専門業者に依頼するなどして、遺骨は確実に粉骨しておく必要があるのです。
ちなみに、粉骨すること自体が死体損壊罪にあたるのではないかという意見もありますが、これにも法的な判断は下されていません。
現状では、悪意をもって死体を遺棄する際の粉骨ならともかく、海洋散骨に伴う粉骨であれば容認されていると考えるのが適切ではないでしょうか。
遺骨を散骨する時は、周囲に迷惑をかけない沖へ出よう
法律を守って粉骨を行うのはもちろんですが、マナーに配慮することも大切です。
海は誰のものでもなく、漁業や養殖によって生計を立てている人や、海岸沿いで生活している人もいるのですから、周囲に迷惑をかけないようにしなければなりません。
そのためには、できる限り岸から離れて、周囲に何もないところで散骨を行う必要があります。海岸やその近辺の海はもちろん、漁業や養殖場の近くで行うと、風評被害を招くおそれがあるからです。
また、航路も避けるのが望ましいでしょう。船でなるべく外洋に出て行うのがベストです。
もちろん、船なら何でもいいわけではありません。
クルーズ船の上などから散骨を行えば、他の乗客に不快な思いをさせ、船会社にも迷惑をかける可能性があります。
海洋散骨の専門業者か葬儀会社の散骨プランなどを利用し、チャーター船に乗って沖へ出るのが望ましいでしょう。その地域の条例で散骨が禁止されていないかどうかも、必ず確認してください。
3.遺骨の海洋散骨は環境汚染に繋がらないのか?

海洋散骨は、粉骨した遺骨を散骨する、つまり海にまく埋葬形態です。
大海原で眠るイメージや、お墓の継承の必要がないというメリットから人気を集めていますが、「海洋汚染につながるのではないか」という指摘も存在します。
はたして遺骨を海にまくことは、海にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
ここでは、海洋散骨と海洋汚染の関係性について考えてみましょう。
遺骨の主成分に危険性はほぼない
散骨が海に与える影響を考えるにあたって、まずは遺骨が何でできているのかを知っておく必要があります。
遺骨の主成分は「リン酸カルシウム」と呼ばれる物質です。
もともと人間の骨は、約70%がリン酸カルシウムの一種でできており、火葬後にそれが残ることになります。
また、人間以外の動物の骨・歯の主成分もリン酸カルシウムです。
その他、さまざまな動植物の細胞や器官内に存在しているため、自然界ではありふれた物質といっていいでしょう。
海にまかれた遺骨も、いずれは微生物に分解されるなどして自然に還ることになります。
したがって、「遺骨自体」が海洋汚染を引き起こすことはまずありません。
ただし、少しでも早く分解されるようにするため、遺骨をパウダー状に粉骨することは必須といえるでしょう。
粉骨せずに散骨を行うと、分解に時間がかかるだけでなく、事件性を疑われることがあります。
加えて、水に溶けないビニール袋などを遺骨と一緒に海にまかないようにしなければなりません。
海に供花を投げ入れる場合もありますが、これも花びらのみに止めるのが望ましいでしょう。
火葬の過程で有害物質が生成される場合もある
人骨本来の成分にのみ注目するのであれば、海洋散骨はほとんど問題ないといえます。
しかし、遺骨の成分はすべてが安全なわけではありません。
火葬の過程で発生する、有害な成分が含まれている場合があるからです。
特に注意すべき成分を見ていきましょう。
六価クロム
極めて強い毒性を持つ、自然界にほとんど存在しない有害物質です。
火葬の過程で生成され、遺骨に環境基準値を超えて含まれる場合があることが確認されています。
強い酸性のため皮膚に着けば皮膚炎を引き起こし、発がん性物質でもあるので取り扱いには注意しなければなりません。
ステンレスなど
火葬の際は、遺体をステンレスなどの台に乗せるため、台の成分が燃焼して遺骨に付着してしまうことがあります。
六価クロムほど危険ではありませんが、海洋汚染につながる可能性は否定できません。
4.環境に配慮している粉骨会社を選ぼう
遺骨に六価クロムなどが含まれていることを知り、海洋散骨に否定的になる方もいるでしょう。
しかし実際のところ、これらの有害物質の含有量はごく微量で、海に何らかの影響を及ぼすことはまずありません。
ただし、それはあくまでも「現在の規模で」散骨が行われていれば話です。
将来散骨を希望する人が増えれば、安全であるはずのリン酸カルシウムも含め、遺骨の成分が何らかの問題を引き起こす可能性はあるでしょう。
そのため、これらの問題をしっかりと認識している粉骨会社では、六価クロムの中和剤を使用するなどの処理を行っています。
さらに、散骨の安全性を保つための法整備を進めるよう、行政に働きかけている会社・団体もあるのです。
海洋散骨を行う際は、このような優れた粉骨会社に依頼するのが望ましいでしょう。
5.海洋散骨はいくらかかるの? 海洋散骨の価格や手続きを紹介

近年では、従来のお墓とは異なるさまざまな埋葬形態が登場しています。
海に遺骨を散骨する海洋散骨もその一種で、継承不要というメリットやイメージのよさから人気を集めていますが、費用の心配をする方も少なくありません。
はたして遺骨の散骨にはいくらのお金がかかるのでしょうか。また、従来のお墓に比べて安くなるのでしょうか。
ここでは、海洋散骨の費用に関する知識を紹介します。
業者に海洋散骨を依頼する場合の費用
日本では、専門業者に依頼して船を出してもらい、外界に出て行う海洋散骨が主流です。
散骨の費用=業者の散骨プランの料金と捉えてもいいでしょう。
業者の散骨の形態は大きく3つに分けられ、それぞれ料金も異なります。
適切な業者を選ぶためにも、料金の相場を知っておいてください。
個別型(貸切型):20万円~30万円
家族や友人など、故人と親しかった人のみで船をチャーターして海洋散骨するタイプです。
他人を気にすることなく散骨ができるのがメリットですが、その分料金も高くなります。
そのため誰がいくら負担するのかは、よく相談しておいた方がいいでしょう。
合同型:10万円~20万円
散骨を希望する複数の家族が、1つの船に乗り合わせるタイプです。
乗船人数が多い分、個別型に比べて料金は安くなります。
他人の目が気にならない人や、費用を少しでも節約したい人におすすめです。
代理型(委託型):3万円~5万円
遺骨を業者に送り、遺族に代わって散骨を行ってもらうタイプです。
後で送られてくる写真でしか様子を知ることはできませんが、料金は非常に安くなります。
都合がつかなかったり入院していたりして、どうしても直接立ち会えない時にも散骨を行えるなど、安さ以外にもメリットがある点に注目してください。
業者の散骨料金の内訳
海洋散骨の料金相場を知って、「ちょっと高いな」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、従来型のお墓を新しく購入すれば、150万円~200万円ほどかかります。
加えて、墓地の管理費用が別途必要になることもあり、そうでなくても維持管理の負担が発生するのです。
それに比べれば、散骨は十分に安価だといえるでしょう。
とはいえ、お金を払うからにはその使い道も知っておきたいものです。
業者に依頼した場合の散骨の費用の内訳は、主に以下のようになっています。
- 船のチャーター代
- スタッフの人件費
- 献花や献酒の代金
- 粉骨や骨壷の処理費用
- 散骨の写真を収めたアルバムの作成費用
さらに僧侶などの宗教者を招く場合は、お布施として別途3万円~5万円、お車代として5,000円~1万円ほど用意する必要があります。
業者に支払うのか僧侶にお渡しするのかはプラン次第です。
その他、具体的なプランの内容は業者と相談して決める必要があるので、散骨を希望する海の近くの業者に連絡してみましょう。
自力で海洋散骨を行う場合の費用
現在の日本では、海洋散骨のルールを定めた法律はなく、業者に依頼するよう決められているわけでもありません。
そのため、やろうと思えば自力で散骨を行うことも可能です。
この場合、費用はどの程度になるのでしょうか。
まずは、遺骨を分骨するための費用として2万円~4万円ほど必要です。
業者に直接持ち込む場合は、5,000円~2万円程度で済ませることもできます。
ただし、粉骨せずに散骨を行うと、死体遺棄罪に問われるおそれもあるので注意しましょう。
そして、費用の大半を占めるのが船のチャーター料金です。
マナーの関係上、海岸や旅客船から散骨を行うのは望ましくないため、自分で船を貸し切るしかありません。
料金相場は地域によってまちまちですが、3時間~4時間以内なら、5万円程度でそれなりの船をチャーターできます。業者に依頼する場合に比べれば格安です。
ただし、チャーター船の船長・スタッフは散骨の専門家ではないため、散骨に適したポイントを知っているとは限りません。
散骨が目的だと告げた上で、周囲に迷惑をかけないポイントを探してもらうといいでしょう。
より安く済ませたいなら、それこそ小さな釣り船などでも構わないのですが、安全性の保証はできません。また、そのような形で散骨を行うことが、弔いの形として正しいのかという問題もあります。
料金だけにとらわれず、散骨のあり方をよく考えてみてください。
6.遺骨を散骨する方法やマナーなどについてのまとめ
この記事では、遺骨を散骨するための方法やマナー、料金について解説しました。
簡単にまとめますと、下記の通りです。
・遺骨を散骨することは違法ではない。
・遺骨を散骨するには、必ず粉骨することが必要。
・遺骨を散骨する海洋散骨の費用は3万円~30万円ほど。
※主に船のチャーター方法によって異なる。
・遺骨を散骨することは違法ではないが、ややグレーとも言える。
海洋散骨は、近年、宗教観の稀薄化や少子高齢化によってお墓の後継者不足の問題などからも、非常に注目され人気も高まっている埋葬方法です。
もしかしたら近い将来、遺骨の埋葬方法は散骨一択という時代が来るかもしれませんね。